以前の記事「車の移動中やゲーム中でも本を”聴け”る!?オーディブルをおすすめする理由」でAmazon
ある程度のビジネス書を“読み”終えた私は現代文学に手を出すようになりました。
そんな時、オーディブルに浅田次郎著のプリズンホテルが登場しました。
2018年2月10日時点でプリズンホテル1夏、プリズンホテル2秋の2作が“読め”ます。
読み終えてから調べるまで気付かなかったのですが、プリズンホテルは1993年に刊行された作品で、同時期にドラマ化もされている作品だったようです。
書籍は全4作となっていて、プリズンホテル〈3〉冬
私はプリズンホテル〈1〉夏
今回はプリズンホテル〈1〉夏を中心にプリズンホテルの魅力溢れる世界を紹介します。
※ネタバレを含むため未読の方はご注意ください。
また、私は本作をオーディブルで傾聴したため、漢字などの情報はWikipedia-プリズンホテルを参考にさせていただきました。この記事をご覧の方にはAmazonプライム会員登録
この記事をご覧の方には「【ネタバレ有】『盾の勇者の成り上がり』をオーディブルで視聴した感想」もおすすめです。
「奥湯元あじさいホテル」は地元の人々にはプリズンホテルと呼ばれている。
というのも、このホテルのオーナーは関東桜会木戸組の初代組長である木戸仲蔵だからだ。
この前代未聞のホテルで繰り広げられる人間模様を描いた作品がプリズンホテルである。
本作の主人公、極道小説「仁義の黄昏」を代表作とする売れっ子小説家。
その作品は“本職”の方々にも親しまれる名著であるようだ。
本人は作家になる前は自衛隊に所属するなど、ガリ勉タイプではないようだがかなり偏屈な人物である。
幼い頃に母に捨てられたせいか屈折した愛情表現が目立つ。
継母である富江のことを「トミエ!」と呼び捨てにし、召使のようにこき使い、当然のように暴力を振るうさまは、まさに外道である。
さらに、愛人として囲っている田村 清子に対して、理不尽な命令を守らせ困惑する様子を楽しむ姿は、真正のクズである。
本人曰く「偏屈」とのことだが、主人公のクズっぷりはそんな言葉では言い表せないものである。
既にご存知だと思うが、私は彼が嫌いである。
木戸 孝之介に毎月一定額の生活費を援助される代わりに、秘書として仕事の手伝いから夜の相手まで務める愛人。より本質を突くなら奴隷である。
6歳の娘がいるが、夫は現在行方不明であり、そのことが木戸 孝之介に付け入る隙を与えてしまったようだ。
なお、夫とは作中で邂逅するが、ヤクザのヒットマンで“実績”もある夫は清子に正体を明かさない。
田村 清子は、頭はそれほどよくないようだが、木戸 孝之介曰く「100人の男が100人振り返るほどの美人」とのこと。
木戸 孝之介のDVに辛抱強く耐えている描写を見ると、男を見る目はなく不幸体質なのかもしれない。
美人といっても清楚系ではなく、かなりのむっつりスケベである。これについては後述する。
木戸 孝之介の叔父で、関東桜会木戸組の初代組長、兼「奥湯元あじさいホテル」のオーナー。
彼の地位は、会社で例えるなら大企業の専務取締役か副社長のクラスであり、業界ではそれなりに名の知れた人物であるようす。
ヤクザとしての“しのぎ”は総会屋で、ひょんなことから「クラウンホテル」の弱みを握り、「奥湯元あじさいホテル」及び花沢・服部の両名を引き抜くことに成功する。
今どきのヤクザにしては珍しい、義理と人情に溢れる漢であり、部下にも慕われている。
唯一の身内である木戸 孝之介のことを「コウちゃん」と呼び、何かと目をかけている。
作中の描写でヒットマンに襲われた時の身のこなしが、元自衛隊員の木戸 孝之介に「理想的な動き」と言わしめるほどであった。かなりの修羅場をくぐってきた猛者である。
一流のホテル「クラウンホテル」で長年勤める花沢は、ホテルマンとして誠実で的確な振る舞いとサービスを提供する一流のホテルマンである。
しかし、ホテルでの火事騒動の際、全館のスプリンクラーを作動させホテルを水浸しにし、消防車を呼び大衆の耳目に晒した上に、宿泊客の別宿を保証するという対応をする。
この顧客至上主義を貫く“素晴らしい”サービスは、クラウンホテル側に数億円の特別損失を計上してしまう結果となる。
以来、花沢は同期が次々と支配人に抜擢される中、ずっと冷や飯を食わされてきた。
そんな花沢がついに支配人として配属されることになる「奥湯元あじさいホテル」はクラウンホテルが総会屋の木戸仲蔵に弱みを握られ、プリンスホテルから人身御供として差し出されことを本人は気付いていない。
クラウンホテルも花沢の扱いに手を焼いていたため、仲蔵の申し出に快く応じたが、実態は花沢のホテルマンとしての腕を見込んだ仲蔵のスカウトであった。
そんなことを知る由もない花沢は支配人としての着任当日、とんでもない光景を目にすることになる。
30歳の若さでクラウンホテルの料理長を務めた天才シェフ。
弱みを握られたらあっさり放出した花沢と違い、クラウンホテルが最後まで出し渋ったことからもその実力が伺える。
※最終的には不祥事をでっち上げられ、追い出されることとなった
作中に彼が作ったリゾットは、「奥湯元あじさいホテル」の板長すら唸らせる出来であった。
ただ、自分のことを板長にシェフと呼ばせようとしたり、怪しい霊感商法に引っ掛かりグッズを購入するなど、少々痛い人でもあることが作中の描写から伺える。
「奥湯元あじさいホテル」の板長。先代のオーナーだったころから勤めている唯一の人物でもある。
料理界では全くの無名であるが、天才シェフと呼ばれる服部 正彦ですら敵わないと感じるほどの腕の持ち主。なお、本人は頑固一徹の無口な漢である。
作中で出される鮎の雑炊は、服部 正彦をも唸らせる出来であった。
さらに、この料理を作りながら服部 正彦に香草に山椒を使うことをアドバイスするなど、職人としてかなり高みにいることが分かる。
後に、服部 正彦が使う包丁が合っていないなどアドバイスもする。
服部 正彦に自分のことを板長と呼べと言うなど、ちょっと可愛い一面もある。
プリズンホテルの作中では、それなりの頻度で下ネタが登場し、1回以上の濡れ場もある。
プリズンホテル〈1〉夏
木戸 孝之介が“偏屈”な小説家であることは既に紹介しているが、性癖も変態そのものである。
どのような性癖かというと、自分が執筆中の小説の主人公になりきって夜の営みを行うというものである。
なお、相手方の田村 清子にもこの設定に基づいた変態プレイを強要する。
驚くのは、田村 清子も結構ノリノリでそのプレイに興じてしまうところである。
私は「エッチィのはよくない」と思うのだが、むっつりスケベの田村 清子はノリノリで木戸 孝之介の求めに応じてしまう。
読者のみなさんが興奮すること間違いなしである。
プリズンホテル〈1〉夏
正式名称は「奥湯元あじさいホテル」だが、ヤクザ兼オーナーの木戸 仲蔵が「ヤクザ者が羽を休めることができるホテル」という驚きの差別化戦略を強行する。
この戦略が功を奏し、懲役明けでシャバに戻ったばかりのヤクザや、落ち着いて羽を伸ばせる慰安旅行先のない任侠団体に大ウケし、界隈では評判の知る人ぞ知るホテルとなる。
地元民はその異様な雰囲気を知っているため、プリズンホテルと呼び恐れている。
カタギのスタッフは、支配人の花沢 一馬、シェフの服部 正彦、板長の梶 平太郎だけで、番頭をはじめとするホテルマンは全員がヤクザ者である。
そのせいで、仲居のなり手がおらず、タガログ語訛りの日本語が目立つアニタやゴンザレスが仲居として働いている。
仲居の方も無理やり働かされているわけではなく、国の家族に仕送りができる日本人と同じ金額の給料がもらえることで、木戸 仲蔵を敬愛してすらいる様子である。
プリズンホテルには稀に一般人が紛れ込んでしまう場合があるのだが、一家心中直前の家族や熟年離婚待ったなしの夫婦などが、非日常の世界に触れることで考えを改めることもあるようだ。
プリズンホテルの主題は、主人公 木戸 孝之介の成長であるが、私はプリズンホテルの世界に現代社会のメッセージがあるのではないかと感じた。
最近では、ポリティカルコレクトネス(PC・ポリコレ)の影響もあり、あるべき姿や配慮しなければいけない人物や団体が非常に多い世界になってしまった。
同時に、価値観の多様化も相まって、対外的な発言が頻繁に炎上するなど、やや余裕のない社会になっているような気がしないでもない。
こういった現代社会に疲れてしまっている人もかなりの人数いるのではないかと私は考えている。
一方で、プリズンホテルの世界にはポリコレなどという概念は存在しない
。番頭はじめホテルスタッフがヤクザであり、仲居に至っては日本人ですらない。
宿泊客だって社会のつまはじき者である。
板長やシェフは別として、花沢 一馬ですら優秀な能力があるにもかかわらず会社では窓際族だった。
それでも、ホテルとして営業することはできるし、そんなホテルを利用する人だっている。早い話が“何とかなる”のである。
ポリコレが蔓延するようになり、現代人は常に緊張感をもって発言しなければならなくなっているように感じる。
ひと昔前は公の場だけであったが、今では私的な場でもおいそれと好きなことを言うのがはばかられるというのが実情だと思う。
弾力のある輪ゴムですら、引っ張り続けることで切れてしまう。
これは人も社会も同じではないだろうか。
現代社会に必要なのは、“ゆるみ”や“たわみ”、“何とかなるさ”という精神だと思う。
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